top of page

『キャプテン・フィリップス』:アフリカ東海岸と日本の自衛隊


 この映画の存在を僕は知らなかったのだが、知人に勧められて見てみた。事実を基にした、大変スリリングなよくできた物語だった。

 舞台はソマリア沖、乗組員20人の大型貨物船が、たった4人の海賊によって占拠されてしまうという話です。

 初めは、たった4人くらい、なんとかやっつけられるんじゃないか、と思っていましたが、そんなことはないんですね。たとえ20人の船員がいようとも、一切火器を持っていなければ、武装した4人の男に負けてしまうのです。

 貨物船の船長・フィリップスは銃を持つ屈強な4人の海賊に、どう立ち向かっていくのか、手に汗握るスリラー作品だ。

 途中、フィリップスが海賊に対して、なぜ海賊行為を行うかを問う場面がある。

海賊たちはもともと現地の漁民であり、根っからのマフィアや荒くれ集団というわけではない。

 彼らは、ソマリア沖に欧米の船が出現し、マグロやその他の魚介類を乱獲し、さらに有害な廃棄物を投棄していく現状を語る。海賊行為を行う青年たちは、欧米諸国の密漁者、不法投棄者に、生業を奪われたために、欧米の貨物船を襲うしか生計を立てる道がないのであった。

 フィリップスは、彼らに問う。

「漁業以外の道もあるだろう」

 それに対し、彼らはこう答える。 「アメリカならな。アメリカならだ。」

 さて、今回のテーマは、治安が一向に良くならないアフリカ東海岸における日本のプレゼンスについてである。

 映画では、フィリップス船長が海賊に襲われた時に、英米の軍事機関と無線を交わす場面ある。アフリカ東海岸において、やはり絶対的な影響力を持っているのは、英米のようである。

 今年、日本では安保法案が可決され、自衛隊は海外での活動を活発化させた。現在、PKO活動の一環として、ソマリアの西のエチオピアのさらに西、南スーダンにおいて、自衛隊は主にインフラ整備等の活動を行っている。

 このアフリカにおけるPKO活動で、現在自衛隊は大きな転換点を迎えている。

 ソマリアの北側にジプチという小さな国がある。そこに現在、日本は戦後初めてとなる海外の「基地」を建設している。もちろん、自衛隊は「基地」などという言葉を使ってはいない。「海外拠点」という表現を使用しているが、この新たなジプチ基地は、自衛隊のPKO活動の、さらには武器輸出の重要な拠点となる。

 政府はこれだけ重要なことをするのに、国民には知らせようとしていない。そしてメディアもあまり取り上げていないのが現状である。

 このような事実があったことを、僕は知らなかった。先日、元レンジャー隊員の井筒高雄さんの話を拝聴して初めて知ったのだ。

 これでけでも、十分僕にとっては、ショッキングな事件である。海外で一発の銃弾も放っていない日本が、海外に基地をつくるんだぞ?

 しかし、さらに悪いことが、この「ジプチ基地」の話には隠されている。

 話が少しずれるが、日本における米基地について、日本と米国は「地位協定」というものを結んでいる。

 これは、米軍に日本での治外法権を認める協定であり、これがあるために日本で米軍の基地が墜落しても、警察がこれを調査することができない。12歳の少女がレイプをされても、軍用車で轢き殺されても、米兵が基地内に逃げ込んでしまえば日本の法律で裁くことはできないのである。

 この「地位協定」があるために、沖縄県民は苦しめられ続けているのだ。

 閑話休題。日本が戦後初の基地を建設するにあたり、日本政府はジプチと地位協定を結んでいる。その内容は日米地位協定以上にえげつないものである。

 国会での審議で、森本敏拓殖大教授が次のように、この協定に賞賛を送っている。

 ちょっと長いが、是非読んでみてほしい。

今回、日本とジブチの地位協定といいますか、実際は地位協定とは言っておらず、交換公文を双方が交わして統合任務部隊を現地に展開させているわけですが、思えば、日本の戦後の自衛隊の活動で、ホスト国とのこの種の地位に関する交換公文、協定を結んで統合部隊を展開させる言わば初めてのケースであり、これは今後の日本の自衛隊の海外における活動の非常に良い例といいますか、になりつつあるんだなということを強く感じるわけであります。特に、この交換公文の中で、すべての刑事裁判権を日本側にゆだねているという、大変日本に有利な地位協定の内容になっていることに私は一種の感慨を覚えるものです。  日米地位協定というのは、御承知のとおり、いわゆる在日米軍が日本でいろいろな刑事事件にかかわった場合の裁判権については、双方が争うケースの場合、原則として公務執行中の作為若しくは不作為によるものについてはアメリカが第一次裁判権を持っていますが、それ以外については日本側が、ホスト国が持っているわけで、今回のこの交換公文によって日本側が刑事裁判権のすべてを責任を負うという形になっていること自身が、日本の自衛隊が特にこのホスト国によって大変重く扱われているということの証拠ではないかと考えます。

(中略)

 御承知のとおり、その日米地位協定の出来方というのは、地位協定第十七条で刑事裁判権の管轄について、先ほど申し上げたように、在日米軍人が起こした事案、刑事事案というものが公務執行中の作為若しくは不作為の場合に原則としてアメリカ側が第一次裁判権を取る、それ以外の場合にはホスト国である日本が第一次裁判権を取るという仕切りになっているわけです。  先ほど冒頭申し上げたとおり、そうではなくて、この日・ジブチの交換公文というのは、いかなる場合でも自衛隊員がジブチに駐留する場合に起こした事件についての刑事裁判権というものを日本がすべてその責任を負うということになっているのは、たとえ公務執行中でない事故が起きたとしても、裁判権を日本の国内法に基づいて日本が裁判権を取るということになっているのは、日米地位協定との関係において日本が特権を享受している、つまりそういう意味では日本が有利である。  もっと簡単に言ってしまうと、そういうことは考えにくいのですが、仮に自衛隊員が現地で勤務中以外の場合に町に出ていて、現地の人と傷害事件を起こして、その裁判権を争うというときに、この協定は、にもかかわらず、ジブチ側が協力をして日本が刑事裁判権を全部行使できるようになっている。それは、在日米軍基地において、つまり在日米軍が日本で享受できる特権よりもはるかに日本にとって有利な協定になっているのではないかと。そして、そのことは今後日本が海外に駐留するときに、この協定をモデルにして各国と協定が結ぶことができるというのであれば、非常に良い地位協定の基礎ができたのではないかという趣旨を申し上げた次第でございます。

 日本は、それによって苦しめられている人間が数多くいるにもかかわらず、日米地位協定と同様かそれ以上に悪い協定を、ジプチとの間で結んだ。日本が圧倒的に有利な条件を持つこの協定を、森本氏は今後の日本の指針となる優れた例として持ち上げたのである。

 正気だろうか。

 これはもちろんジプチの人々の主権性を踏みにじる行為であるとともに、沖縄県民への冒涜でもある。このような協定を日本自身が結んでしまったら、今後は日米地位協定を批判する権利を日本は失ってしまう。同じように自国に有利な協定を他国に押し付けているのだから。

 この話を聞いて、皆さんはどう感じるでしょうか。

 今年一番胸に残るニュースとなりました。

Article List
Tag Cloud
まだタグはありません。

深夜のサカマキ貝

He is deep in meditation
bottom of page