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押井守『スカイ・クロラ』:①戦争のない世界

  • 執筆者の写真: krmyhi
    krmyhi
  • 2014年6月28日
  • 読了時間: 4分

スカイ・クロラは色んな要素が詰め込まれていて面白かったです。「ティーチャーと父権性」、「エヴァンゲリオンへのオマージュ」、「子供と大人の違い」など、色んなテーマを思いつきました。今回は、この作品で語られている戦争観について、たくさん思うことがあったので、このテーマにしました。

 観終わった後に色々語りたくなる作品とは、様々な切り口からの議論を想定して作られた作品ということで、良い作品の証ですね。

 この作品の主人公とヒロインは、キル・ドレと呼ばれる戦争をするために生まれてきた大人になることができない人間です。大人になれないというのは、ずっと若いままでいられるわけで、老衰では死なない人間ということです。多分病気にもかからないのでしょう。

 ヒロインの草薙スイトがこの物語世界の設定について説明する場面では、以下のように語られます。

 今まで、世界中で一秒たりとも戦争が消えたことはなかった。そして、これからも戦争がなくなることはないだろうと判断した世界の人々は、戦争請負会社とキル・ドレに戦争を任せることで、普通の人々は戦争に巻き込まれないで住む様な世界を構築した。

 記憶違いでなければこんな感じです。実際、物語の中ではキル・ドレの主人公に「あなたたちのおかげで私達は平和に過ごせてる」と声をかけるおばさんも登場しています。物語の中では、主人公達は戦争をするけど、戦争をするからこそ平和の使者であるのです。この考え方って、とてもタイムリーですね。笑。

 この映画の提供は「読売新聞」。作中に二回も「読売」と書かれた新聞が登場します。とても「読売らしさ」が出てますね。

 さて、一つ目のテーマは、「戦争のない世界」です。ぼくは、「今まで世界に戦争が消えたことはなかった」という台詞に引っ掛かったので、ちょっとそれについて書きます。

 本当に戦争のない世界というのは、この地球上に存在しなかったでしょうか。まあ、地球上に人間がいなかった頃は、もちろん戦争は存在しないので、ホモ・サピエンス登場後の地球史において考えましょう。人間のもっとも原始的な生活は狩猟・採集の暮らしです。農耕社会はもっとずっと後に出てきます。

 ここでちょっと横道に反れますが、結構次の様な勘違いをしている人が多いのですが、これは間違っています。と、ぼくは思います。

 「日本は古来から農耕社会だから、日本人は平和的な民族である」という言説です。

 一つ目の間違いは、日本人=ほぼ農耕民族と、日本人の枠をかなり狭く捉えている点です。日本には、明治の前まで狩猟・採集を主に行なっていたアイヌや琉球民族が住んでいます。まあ、こちらの間違いは結構誰にでも分かると思いますが、二点目の誤りに気付かない人が結構います。

 農耕社会=平和的、という考え方です。確かに狩猟というのは動物を殺して生活することなので、残酷なイメージがつきやすいです。しかし、歴史は、そのような我々のイメージとは全く異なる事実を語っています。

 覚えている人も多いと思いますが、縄文時代(狩猟採集社会)と弥生時代(農耕社会)の遺跡から出土する「矢じり」は、縄文時代のそれは動物を殺すことを想定されていて、弥生時代のそれは人間を殺すことを想定されて作られています。その他にも弥生時代の遺跡からは戦争を行なった形跡が数多く残されています。つまり、弥生時代(農耕社会)の方が戦争は多かったということです。(狩猟採集社会でも戦争がなかったとは言いません。実際、アイヌ民族も部族間対立から結構血なまぐさいことをやっていたらしいです。)

 縄文時代(狩猟採集社会)と弥生時代(農耕社会)の一番の違いは何でしょうか。それは、蓄財できるかどうかです。食料の備蓄ができるかどうかです。蓄財ができると貧富の差が生まれるということです。それによって、戦争は起こる訳です。

 例えば、狩猟採集の場合、自分のクニで獲物が採れなかった場合、隣のクニを襲っても意味がない訳です。備蓄がほとんどないわけだから。しかし、食料の備蓄がある弥生時代の社会では、自分のクニが飢饉に襲われたら、「じゃあ隣のクニを襲うか」ということになります。だからクニが大きくなればなるほど、他のクニから教われないように武装に武装を重ねるようになります。現代の軍拡競争と似ていますね。

 つまり、人間がまだ狩猟採集の原始的な暮らししかしていなかった頃は、世界に戦争は(ほとんど)なかったのです。希望も含めてぼくはそう思います。

 だからこそ、ぼくは平和を実現するための唯一の方法が戦争だなんて思わないし、平和を戦争で買おうとする人が増えることは嫌です。

 続編は、②人権と戦争ーー戦争請負会社のリアリティーーです。乞うご期待!

 
 
 

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