アドロン『バグダッド・カフェ』:ブーメランの軌跡
- krmyhi
- 2014年6月10日
- 読了時間: 3分
変わり者・はぐれ者達が小さな家族を作る物語。砂漠の真ん中で、旅行中に男と別れた女・ジャスミンとその砂漠の真ん中でカフェとガソリンスタンド及びドミトリーを営んでいる女・ブレンダ。ブレンダも夫と喧嘩し、夫は出て行ってしまう。
男と別れたという同じ境遇を持つ者同士なので、本当は初めから二人は分かり合える仲になるべきであるが、初対面同士ではそうはいかない。ヨソ者には冷たくしてしまうのが人の世の常である。
序盤で面白かった点は、「女一人で砂漠に旅行に来た」と言って部屋を借りに来たジャスミンに対し、ブレンダが不審感を持つところです。ブレンダは、ジャスミンが旅の途中で男と喧嘩別れした、などということには全く想像が及ばず、女一人でこんな砂漠に部屋をとるのはオカシイと考えて警察まで呼んでしまう。自分が男と喧嘩別れしているのに、ジャスミンが自分と似た様な境遇に置かれているとは思いも寄らないのですね。多分、ブレンダが「夫が出て行ってしまった」という事実を受け入れられていないことを表しているのだと思います。
この映画で繰り返し用いられるブーメランが飛ぶ印象的な映像は何を表象していたのでしょうか。それは、「返ってくる」こと、「円環」だと思います。円環は他人同士をつなぎ、親密な関係性を作るものです。
ジャスミンは、ヨソ者でありながらブレンダのために余計なおせっかいをします。初めは、それがブレンダの気に障り喧嘩の種となってしまうが、後でそれは彼女自身に「癒し」と「新しい人生の意味」として返って来ることになります。そして、その返ってくる軌跡はブーメランが示すように「直線」ではなく、「円弧」なのです。大きく回り道をすることで、たくさんの人間を巻き込む。力点がジャスミンの手元だとすると、作用点は円弧の線上のすべての点です。ジャスミンはブレンダにおせっかいをすることで、周囲の多くの人々にも良い影響を与え、そして多くの人々からお返しをもらう。
ジャスミンが教えているのは、人間が「家族」になるためには、お互いに「おせっかい」を焼き合う、ということが第一条件である、ということです。自分が行なった「おせっかい」はなかなか自分のところに返っては来ない。しかし、なかなか返ってこないということは、それだけ大きな円弧を描いているということです。ジャスミンが投げた「おせっかい」というブーメランは、自分とは異なる文化で育った人、違う考え方を持つ人達に影響を与え、巻き込んでいき一つの家族にしてしまった。
ジャスミンは肥満の白人女性、ブレンダ一家は黒人、ネイティブアメリカンに、娼婦風のタトゥー彫り。この映画に出てくる登場人物の出自がそれぞれ社会的にはマイノリティであり、そんな異なる出自を持つ人々が一つの家族を作るから意味があるのだと思いました。「余計なおせっかいを焼く」という文化はどこのコミュニティにも存在する。なぜなら、それが家族を形成するための必要条件であるからです。
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